美味しくもないラーメン屋が30年も潰れず利益を出している話


たいして美味しくもない知人のラーメン屋が30年間そこそこの利益を上げ続け何故か潰れない話

私の知人はラーメン屋をやっている。

知人というか、私のいとこである。年齢は58歳。30年前に脱サラしてラーメン店を始めた。

町内の旧街道に面した場所にポツンと建っている、本当に小さなラーメン店だ。

カウンター席が5つに、テーブル席が3つ。

14、5人も入ればいっぱいになる。

外観はクリーム色。小さな喫茶店のような感じで可愛らしいが、なんというか、ラーメン屋としては「美味しそう」な雰囲気がまるでない。

こう言ってはなんだが、実際、美味しくない。

ラーメン、餃子、チャーハン、天津飯、空揚げ、野菜炒めと品数は揃っているが、どれひとつ美味しいと思えるメニューはない。

不味くて食べられないほどではないが、これじゃ、家で自分で作っても変わらないな、と思えるレベルだ。

どのメニューも1000円前後で食べれるが、500円以下では食べられない。

つまりそう安くもない。

量だけは、食べ盛りの若者が食べても満足するぐらいあるから、それが売りかもしれないが、ランチで千円出して学生が食べるかと言えば、食べない。

なぜなら、周囲には「餃子の王将」やファミレスや回転ずしや、丸亀製麺やココイチやコメダ珈琲やマクドナルドがあるから。

若者は来ない。

知人のラーメン店に来るのは中年客と高齢者だけだ。

私も義理で2ヶ月に1回ほど食べに行く。

昼飯を食べに行くが、毎回客は10人ほどいる。

半分は常連客だ。

経営状態の詳細は分からないが、車はレクサスに乗っているし、家も建ててローンの支払いも終わっているから、充分やっていけているのだろう。

そもそも脱サラして30年、ラーメン店を続けているだけで成功者と言える。

この業界は厳しい。

店を出して、2年以内に潰れるラーメン屋は半数以上。

それが30年やり続けているだけで立派なものだ。

感心する。

感心はするが、謎だった。

私の長年の謎。

何故、客がこの美味しくもない知人のラーメン店に来るのか?

知人のラーメン店が何故潰れないかの仮説を立ててみた

私は以前から、この事を考えていて、私なりに1つの仮説を立てた。

まあ、仮説というほど大袈裟なものではないが・・・

それは知人の奥さん目当てではないか、ということだ。

奥さんは、美人で石野真子に似ている。

自然と、○○のマコちゃん(○○は店名)と呼ばれた。

マコちゃんはとても明るく、社交的な性格で、お客さん達とも楽しそうにお喋りする。

文字通り、店の看板娘。

マコちゃんに会いたいがため、客はあの店に足を運ぶのではないかとそう思ったのだ。

人間、いくつになってもアイドルには目がない。

ふつうの女の子が握手会をして男どもが殺到する世の中だ。

ふつうのラーメン屋の看板おばさんだって、マコちゃんなら握手会をすれば列をなすかもしれない。

でもね。まさか・・・

しかし、私の仮説はあっさり崩れた。

1年前、知人とマコちゃんは別れた。

私はいとこだから、一応なぜ別れたかの詳細は入ってくる。ちょっと意外な事が原因だったが、この話の本筋ではないので語らない。

問題は、マコちゃんがいなくなっても、ラーメン店から客足は遠のくことはなかったことだ。

となると、この美味しくもないラーメン店になぜ客がやってくるのか、その理由はわからなくなった。

常連客が通い続けている本当の理由

3ヶ月ほど前、最近出来たばかりのショッピングモールで、ラーメン店の常連客の一人に声を掛けられた。

「どうしてマコちゃんと大将、別れたんだい?」

いとこの私なら理由を知っていると踏んだんだろう。ラーメン店ではその話はタブー視されていた。

私は言葉を濁した。この手のことを口外する気になれなかった。

常連客は、大将のクラブ通いがどうのこうの、若いブラジル人女性がどうのこうの、と話して私の反応を伺っていた。

私は話題を変えたくて話しを振った。

「●●さんって、あのラーメン店が開店した頃からの常連でしたよね」

常連客は頷いた。

「30年、だよなあ」

「長いですね」

私は思い切って尋ねた。

「どうして今でもあの店に行っているんですか?こう言っちゃ、なんですけど、あそこ、そんなに美味しいラーメンって訳じゃないし」

そう言うと、常連は苦笑した。

「俺はF鉄で働いていたから」

F鉄は我が町にあった大手の製鉄工場だった。90年代終わりに閉鎖になった。

「30年前、F鉄の独身寮の前にあのラーメン店が開業したんだよ、もう寮は取り壊されているけど」

すっかり白髪になった頭に手をやり、常連客は遠い目をした。

「ほら、大将の店、とりあえず量はあるだろ。温かい物が食べれて腹いっぱいになる。それだけで十分だった。当時はコンビニもなかったし・・・」

私はあっ、と思った。

「もしかして、他の常連客もみんなF鉄で働いていた人ですか?」

そうだよ、と彼は言った。

「みんな、この町の出身じゃないんだ。俺は九州だし、四国や広島や東北とか、みんな県外からやって来て、F鉄で働いていたんだ」

90年代終わりは日本経済が失われた20年のど真ん中。だが、幸い、中京地区は日本の製造業の拠点でもあり、選ばなければ転職先には困らなかったそうだ。

「寮の仲間とはバラバラになったが、あのラーメン屋に行くと昔の仲間と会える。まあ、それでずっと通い続けているんだ」

たいして美味しくもないラーメン屋が30年続いていることには理由があった。

だが、もう1つ疑問がある。それなら、あの店に行かなくとも、昔の仲間と連絡を取り合って、会えば済むのではないかと。

私の考えを見抜いたように常連客は言った。

「それにあの店、居心地がいいんだよ。大将もマコちゃんも好きだしな」

私にはまったく見えなかったが、知人のラーメン店には、ビジネスで大切な人脈が、特殊な形で存在していたのである。

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